住職三分法話㉗ 法然上人が生きた時代

住職三分法話㉗

令和4年3月1日

 

          法然上人が生きた時代

 

祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声、諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり、

沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(じょうじゃひっすい)の理(ことわり)を表す。

驕(おご)れる者久しからず、ただ春の夜の夢の如し。

《意訳》

インドの祇園精舎という寺の鐘の音のように、全てのものが移りゆき滅んでいくという諸行無常の
響きがある。沙羅双樹の綺麗な花の色も、栄えた者もいずれ必ず滅びゆくという無常を表す。
平家も隆盛の時期は長くない、ただ春の夜の束の間の夢のようなものだ。

有名な『平家物語』の冒頭の一節です。

法然上人はまさにこの時代を生きた方です。源氏と平氏の争いで京の町が戦火に包まれた時、法然上人は数え歳五十一。
町の人々と同様に明日の命もままならない日々を送られながらも、救いを求めて来られる人々の話を聞き、
お念仏の教えを布教し、命がけでご自身も修行に励まれておられました。

晩年、法然上人はこの頃を思い出し、「経典を読まない日はなかったが、木曽義仲が京の町に攻め込んできた日だけは
経典を読むことはできないほど町は大混乱だった」と述べられています。
まさに死と隣り合わせの日々です。
その中で近くで多くの人が命を落とし、栄華を極めた平氏が滅んでいく様子を見て、この世の無常を身をもって感じられたはずです。

この世はいつ命を落とすか分からない無常であるがゆえに、さらには後生は地獄に落ちるかもしれない我が身を思うと、
後生は必ず極楽浄土へ救われたいと思うのは誰もが抱く自然な気持ちだと思います。

法然上人の「この世はこんなに苦しい事ばかりですが、お念仏を称えれば必ず阿弥陀様が極楽浄土へ救ってくださいます」
というお示しは当時の人々をどれだけ勇気づけたかはかり知れません。

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では平安から鎌倉時代にかけての大変な世の中の様子が詳細に描かれています。
当時と今を重ねて、世の中がどんなに大変で無常に満ちていても、生き抜く強さを法然上人から学びつつ、
今日もただ一向に「なむあみだぶつ」。  同称十念