住職三分法話㉝ 法然上人と御家人⑥ ~渋谷七郎(しぶやしちろう)~

住職三分法話㉝

令和4年9月1日

法然上人と御家人 ~渋谷七郎(しぶやしちろう)~

 

法然上人がご在世の鎌倉時代、将軍(鎌倉殿)と主従関係を結び家来(家人)となった武士を将軍への敬意を表す「御」をつけて御家人と呼ぶようになりました。
その御家人の中には法然上人の弟子となられた方が多くおられます。今回は法然上人の弟子の御家人、渋谷七郎をご紹介いたします。

渋谷七郎は渋谷七郎入道道遍という名前で呼ばれることも石川入道と呼ばれることもあり、法然上人の晩年に十年以上に渡りお側でお仕えした側近の直弟子です。
残念ながら生没年不詳で経歴もほとんど不明ですが、渋谷七郎は先に『法然上人と御家人②』でご紹介した熊谷直実が法然上人弟子になったことを聞いて、
すぐに関東から京都の法然上人のもとへ参じて弟子になったと伝わっています。また法然上人の弟子で浄土真宗を開かれた親鸞聖人が(御家人の中で)
『大胡、渋谷、津戸この三人は法然上人根本の弟子なり』と書物に記していることから、法然上人の弟子となった御家人の中でも心から浄土宗を信仰し、
特に念仏信仰の篤い方だったことがわかります。(親鸞聖人が挙げた三人の中に熊谷直実が入っていないことは少し気になることではありますが・・・)

経歴などが不明の渋谷七郎が法然上人の弟子として名が残る理由として、渋谷七郎が法然上人から直接聞いたという次のお言葉があります。

「往生の為には念仏第一なり、学問すべからず、ただし念仏往生を信ぜん程はこれを学すべし」

(意訳)

「極楽往生の為には念仏を称えることしかありません。難しい仏教の教えを学ぶ必要はありません。ただし、念仏で極楽へ往生させていただくことを信じて
理解するためには仏教を学ぶことは大事です」

この渋谷七郎が伝えてくださった法然上人のお言葉は、浄土宗にとっても大事なお言葉であることはもちろん、私にとっては仏教を学び信仰する上で非常に
大きなモチベーション(動機付け)になっています。
修行時代に「なぜ仏教の勉強をしなければならないのだろう?」と立ち止まった時、この言葉が背中をおしてくれたことを思い出すと共に今も仏教の勉強を
続ける必要性を再確認させてもらえる有難いお言葉です。

渋谷七郎が法然上人のお側でしっかりと教えを直に聞き、お念仏に励まれたことに想いを馳せて、今日もただ一向に南無阿弥陀仏。        同称十念